メジャー初フルアルバム『ドリーム銀座』を徹底解説 -サイプレス上野 INTERVIEW-

メジャー初フルアルバム『ドリーム銀座』を徹底解説 -サイプレス上野 INTERVIEW-

2018年11月28日に満を持してメジャー初フルアルバム『ドリーム銀座』をリリースしたサイプレス上野とロベルト吉野。DJ PMX、SKY-HI(日高光啓)、石野卓球、STUTSなど豪華なプロデューサー・客演を迎えた本作は、多彩な楽曲が散りばめられた一つのジャンルに捉われないカラフルな内容でありながら、しっかりと全編に渡ってヒップホップ愛が貫かれている。『フリースタイルダンジョン』を始め、テレビやラジオなど多方面で活躍するサイプレス上野に、全曲解説をしてもらった。

 

イントロで相変わらず感を出しておいて、

2曲目で「大人っぽくなってんじゃん」って意外性を出そうというのは考えました。

 

 

――2017年9月6日にリリースしたメジャーデビューミニアルバム『大海賊』から1年以上のインターバルが空きましたが、何か理由はあったんですか。

 

上野 まあ、大体これぐらいかなって感じですね。ライブやったり、他の活動をしたりしてたら、このタイミングになりました。

 

――メジャーに行ったことの変化ってあります?

 

上野 ツアーでデカいところでやらせてもらったりもしてるんですけど、ライブに対するこだわりは前と変わらないし、そこまで心境の変化もないですね。ただ今まで見たことのない層がライブに来てくれるのはあります。『ダンジョン』のファンとか、SKY-HIファンとか(笑)。

 

――『ドリーム銀座』は多彩なプロデューサーを迎えていますが、どうやって人選は決めたんですか。

 

上野 仲の良い人たちとか、もともとつるんでいる人たちが大半ですね。大先輩のPMXさんとは前から「何かやりましょうよ」って話をしてて、ようやく実現しました。

 

――音源は吉野さんと選ぶんですか。

 

上野 ほぼ吉野と話し合うことはないですね。大体、俺が決めてます。人によっては10曲以上、ストックを送ってくれたので全部聴いてピーンときたのを、また絞っていって。『ドリーム銀座』は音源をもらってからインスピレーションが湧いた曲が多いですね。

 

――1曲ずつお話を伺っていきたいんですが、1曲目に「Intro」があって、先ほどお話に出たDJ PMXさんプロデュースによる「Yokohama La La La」でスタートします。これが初タッグというのは意外でした。

 

上野 PMXさんは、いわゆるウェッサイスタイルじゃない人たちともやってるから、「あれ俺やるの忘れてたわ」ぐらいの気持ちでした(笑)。クラブで会ったら挨拶するし、ラジオのゲストにも来てくれたし、前から交流はあったんですけど、ようやく実現しました。オジロ(ザウルス)もそうなんですけど、DS455(DJ PMXとKayzabroによるヒップホップユニット)は俺が十代の頃から、「横浜の大ボス」って存在で、そこに食い込むのに必死でした。自分たちはウェッサイでもないし、ゴリゴリのヒップホップスタイルでもないけど、「ヒップホップの好きさは負けねーし!」ってのがあって。この人たちに認められないと、この街(横浜)ではやってけねーなぐらいの気持ちでしたね。

 

――遠い存在でありながら、身近な存在でもあったと。

 

上野 PMXさんはクラブに行けばいましたからね。

 

――中学生でDS455の大人な雰囲気って理解できました?

 

上野 当時から好きでしたね。ウェッサイの友達もたくさんいたので、みんなで聴いて盛り上がってました。PMXさんはメロとか美しい曲を作る人だし、展開が泣けるというかドラマチック。それでいて今のトラップを取り入れた曲も作るから柔軟ですよね。「Yokohama La La La」は、送られてきた音源の中で一番DJ PMXっぽい“泣き曲”だったので、「これで!」って。横浜の奴らが聴いたら「DJ PMXじゃん」って分かる曲だし、そこに俺のラップが乗ってると。

 

――楽曲制作はどんな感じだったんですか。

 

上野 曲をもらって、リリックを乗せて、それを戻したら展開とかを作ってくれて。

 

――この曲を2曲目に置いたのは何か意図があったんですか。

 

上野 イントロで相変わらず感を出しておいて、2曲目で「大人っぽくなってんじゃん」って意外性を出そうというのは考えました。

 

 

 

 

「日高の唇を奪って股間を触れるのは俺だけだ」ってツイートしたら、

昔からの知り合いに「サ上さんやめたほうがいいですよ」ってアドバイスされました。

 

 

――3曲目の「メリゴ」は『大海賊』のリードトラックで、SKY-HIさんがフィーチャリングされていますけど、ラップではなく歌での参加です。

 

上野 ラップの先輩として「ラップはさせねーぞ。歌をやれ」って(笑)。

 

――SKY-HIさんとは、いつぐらいからの付き合いなんですか。

 

上野 まだAAAの知名度がそれほどない頃で、俺たちもAAAを知らない時代から、クラブにデモ音源のCD-Rを持ってきて、「聴いてください!」と。「普段お前何やってるの?」って訊いたら、「AAAってグループやってるんです」って話でAAAのことを知ったんですけど、俺にとっては男前なラッパーの後輩ですね。当時からやる気がすごくて、めちゃめちゃラップも上手いし、勉強家であり研究家ですよ。

 

――それが今や国民的グループのメンバーですからね。

 

上野 AAAが大爆発する前に、「女性口説きMCバトル」ってやつで2試合戦っているんです。最低な内容だったんだけど、そこにあいつも乗っかってきて、勝負が終わった後にキスもしてるんですよ(笑)。その時の動画がネットに残っていて、それを見た新規のAAAファンがショックを受けたみたい。それで俺がツイッターで「日高の唇を奪って股間を触れるのは俺だけだ」ってツイートしたら、昔からの知り合いに「サ上さんやめたほうがいいですよ」ってアドバイスされました。

 

――プロデューサーの岩崎太整さんには星野源さんの楽曲を意識した曲をリクエストしたそうですね。

 

上野 これがメジャー第一弾の曲だったんですけど、俺は源くんのコード感とかが大好きで、そういうブギーやディスコは自分がDJやった時にもかけるんです。それを太整くんに相談して作ってもらいました。

 

――4曲目の「上サイン」はキャッチーなパーティーチューンです。

 

上野 届いた音が90年代のパーティーヒップホップって感じだったので、「上サイン」って言うだけの曲にしようと。それってヒップホップには大事なファクターというか、意味のないことを自信満々に言う、みたいな感じでやりたいなというのがありましたね。

 

――プロデュースはMU-STARS(ミュースターズ)の藤原大輔さんですが、やはり付き合いは長いんですか。

 

上野 めちゃめちゃ昔から知ってるっすね。俺らも世話になっていたカクバリズムからMU-STARSが出していて、それが渋谷界隈ですげー流行っていたんです。誰だか分からないけど7インチやDMRが売り切れらしいぞと話題になっていたんですけど、知り合いのブランドのデザイナーと話してたら「俺知り合いだよ」って。高校の同級生だったみたいで、呼べば来るよってことで後に会って。そこで仲良くなってベッタリって感じですね。もう10年以上の関係です。

 

――5曲目は「PRINCE OF YOKOHAMA 2222」です。「PRINCE OF YOKOHAMA」はサイプレス上野とロベルト吉野の代表曲ですが、それの未来版というか。

 

上野 「PRINCE OF YOKOHAMA」の現在を歌っても代わり映えしないので、未来に行った体にして、星新一のSFショートショートみたいなのを狙って、不思議なリリックを書きました。

 

 

 

 

――続く6曲目の「2018⇄2222」は、上野さんとお母さんとの電話をトラックに乗せるというもので、アルバムジャケットを描いてほしいというやり取りが交わされます。上野さんのお母さんが幾つもジャケットのイラストを手掛けていますが、実際の発注もあんな感じなんですか。

 

上野 そうですね。普通に電話して、その後に描いてって。それで写真を持って行って、「○日までによろしくー」って。そんな感じっすね。

 

――お母さんはヒップホップを聴くんですか。

 

上野 聴かないみたいですけど、『ダンジョン』は観てるって言ってましたね。兄貴と住んでいるから、一緒に観てるんだと思うんですけど。

 

 

 

 

フリースタイルも人に言ってることが伝わらないと勝てないし、

その影響もあるのかなと思います。

 

 

――6曲目の「ヒップホップ体操第三」は、アルバム『TIC TAC』収録曲「ヒップホップ体操第二」の続編で、前作に引き続いてYasterizeさんがプロデュースです。

 

上野 Yasterizeは後輩のトラックメーカーで、いろんな音楽を聴いている雑食。俺たちのヤサに泊まりに来ることもあるんですよ。話がしやすいというか、俺がDJでかけている曲とかを「これ何ですか」って訊きにくる奴なんです。なので何を言っても応えてくれる。そのせいで「マジで無茶ぶりが過ぎます」って言われるんですけど(笑)。Yasterizeに頼む時は、ほぼ俺から指示を出しますね。「こういうのと、こういうので、こうしてほしい」って言うと、「何言ってるか分かりません」と。でも届いた音源は100点なんですよ。

 

――体操なのに「ヒップホップ応援団」ってフレーズがあります。

 

上野 昔、応援団をやっていたので自分のルーツでもあるし、『ヒップホップ応援団』ってマンガもあるので、それを軸にして書いてみようと。サビだけ熱いことを書いて応援団感を出しました。

 

――いつもリリックはテーマを決めて書くんですか。

 

上野 大体そうですね。思いついたフレーズをメモって、そこから展開させていくこともあります。昔はなんでもかんでも思いついたフレーズを書いてたんですけど、今は整合性を持たせることを意識してます。よく分からないラップも個人的には好きっすけど、そこは他の人たちに任せようかなって。フリースタイルも人に言ってることが伝わらないと勝てないし、その影響もあるのかなと思います。

 

――8曲目の「ホラガイHOOH」は石野卓球さんプロデュースですが、電気グルーヴは昔から聴いてたんですか。

 

上野 やっぱり流行っていたので、昔から普通に聴いてましたね。あとスチャダラパーと仲の良い人たちというのももデカかったです。

 

――もともと卓球さんとは面識があったんですか。

 

上野 数回だけですけど、楽屋で会って挨拶とかはしてました。それでメジャーでやる時に、「卓球さんとやるの面白いんじゃない」って話が出て、オファーしたらやってもらえました。最初に音源をもらった時点で、曲が出来上がっているから、「どうやってラップを乗っけんの?」って、かなり試行錯誤しましたね。そしたら、さらにアップデートされたトラックが後から届くんですよ。どれが本当のトラックなんだって(笑)。

 

――9曲目は「ザ・グレートカブキ」はロック要素の強いスピード感のあるトラックです。

 

上野 Yasterizeに「メタルとトラップを混ぜたら面白いんじゃない」って話をして上がってきた曲に、吉野がやってる刑鉄のけいちゃん(高橋’JUDI’ 渓太)がギターを入れてくれて。最初は、このアルバムに入れるつもりもなくて、トラック自体を忘れていたんです。でも久しぶりに聴いたらくだらなくて最高で、地元の奴に聴かせても爆笑してたから、これはちゃんと作ろうって。なのでアルバムで最後に作った曲ですね。

 

――上野さんはメタルを聴いてたんですか。

 

上野 俺はほとんど通ってないんですけど、吉野がメタルDJをやっているので、この曲は吉野色が強いですね。ラップに関しては、大好きだったGAS BOYSを意識しました。「GAS BOYS好きです!」って言ってるラッパーって全然いないじゃないですか。フォロワーがいないっていう(笑)。そこの文化を絶やしちゃいけないって気持ちもあったし、YouTubeにけっこうPVも上がっていたので、それを夜中に見ながら「これだよな。この魂を忘れちゃいけない」って。なので歌い方も最初の1バースは完全にオマージュなんですけど、あっという間にリリックが書けました。